飛行機がキャンセルになり、窓口の女性は対応に追われていた。
長蛇の列の後ろのほうから、人をかき分けて男が一人現われ、カウンターにチケットを叩きつけて言った。
「いちばん速い便だ。当然ファーストクラスでな」
受付の女性がにっこり微笑んで答えた。
「大変申し訳ないのですが、列の後ろに並んでお待ち下さい。皆様のご要望に添えるよう努力致しております」
男は辺りに響きわたるような大声で言った。
「わたしを誰だと思ってるんだ!」
女性はスマイルのままマイクのスイッチを入れ、アナウンスをはじめた。
「ご案内を申し上げます。受付窓口に、自分が誰だかわからなくなったお客様がいらっしゃいます。どなたかお心当たりがございましたら、受付までお願いいたします」
狂ったように笑う乗客達を背中に、男は一人歯ぎしりをしながら言った。
「貴様、どうなるか分ってるんだろうな」
女性はスマイルを崩さず答えた。
「大変申し訳ないのですが、そういったお問い合わせの際も、列の後ろに並んでお待ち下さい・・・