そのバーのバーテンは無双の怪力男だった。
バーテンがグラスに絞ったレモンから客が一滴でも果汁が絞れたら
千ドルの賞金を出すといつも自慢していたのである。
もちろん今まで、力自慢の数多くの人が挑戦したが、
誰も千ドルを手に入れることが出来なかった。
ある日、分厚いメガネをかけ背を丸めた小男がバーに
入って来て、しわがれた声でこう言った。
「わたしもその賭けをやっていいですか?」
周囲に笑い声がわき起こり、ニヤニヤしたバーテンは
黙ってレモンの絞りかすを小男に渡した。
しかし、笑い声はこの男の握りしめた拳から果汁が1滴2滴としたたり落ちるてくると、
シーンと静まりかえってしまった。
結局のところ、小男はなんと30滴も絞ったのである!
驚愕したバーテンは千ドルを小男に払うと、敬意を込めて問いかけた。
「あなたは何をなさっている方ですか。木こりとか、もしかして何か武道でも?」
小男は答えた。
「わたしは税務署に勤めています」